島根県
ゆのつおんせん・やくしゆ
温泉津温泉・薬師湯
ノスタルジックな雰囲気がたまらない
薬師湯は、明治五年(1872年)の浜田地震の際に湧き出したということで「震湯(しんゆ)」とも呼ばれていた温泉津温泉にある温泉銭湯です。また、ここよりも古くからあった向かいの元湯温泉に対して「新湯」とも呼ばれていたそうです。温泉津温泉は、小ぢんまりとした小さく素朴な町ですが、かつては世界に誇る石見銀山から産出された銀を出荷した港でもあったそうで、最盛期にはとても賑わいを見せていたそうです。この薬師湯は数年前までは「藤乃湯」と呼ばれていました。今回久しぶりに訪れたら名称が違っていたのでびっくりです。しかし、建物も中身もあまり変わった様子はありませんでした。建物は鉄筋のしっかりとしたものですが、少し古びてきていてとても素朴な感じです。半円形に張り出した旧窓口の形状が、何だか古い映画館のようにも見えます。映画館を改装して浴場にでもしたのかと勘ぐりますが、そうでもないようです。中に入るとすぐに番台がありました。入って上がった先に浴室の出入り口がありますが、廊下の奥には家族風呂もありました。脱衣所は棚が並び、古びて黒光りしたベンチや錆付いた体重計などが年季を感じさせてくれます。ベンチの背もたれの部分には地域の各旅館の名前なども入っていて、妙にローカルな雰囲気が漂っていました。天井には大きな扇風機も取り付けてあり、昔ながらの地方にある銭湯という雰囲気です。浴室は小ぢんまりとしたもので中央に小判型の湯舟がひとつあり、左右に洗い場があるだけでとても質朴なものです。浴室に入ってまず目に付くのが湯舟とそのまわりの床です。湯舟から溢れ出た湯の成分が堆積され床全体に広がり様々な模様が浮かび上がっていました。いつ頃からこの湯舟があるのかはわかりませんが、まるで数万年も前から人知れず湧いていたかのような神秘的な世界が広がっていました。湯舟には岩と岩を組んだ間に鯰(なまず)の形をした湯口があります。地震から生まれた温泉だからナマズなのですかね。それにしてもこのナマズはヒゲなんだか眉毛なのだかわからないようなヒョロ毛があり、とてもユニークな面をしています。注ぎ込まれる湯はほとんど無色透明なのですが、湯舟の湯はお吸い物のように薄くウグイス色に濁っていました。温度はなかなか適温か少し熱い程度で、すくって飲んでみると炭酸系の鉄分の味と少々ショッパさがありました。塩分を含んでいるためか、すぐに体が温まります。当然のことながらここでは源泉を掛け流しで使っているようで、贅沢な気分で湯に浸かることができます。湯に浸かって温泉が体に浸透していくのを味わっているのは恍惚の境地ですね。ぼんやりと床を眺めていたら、床に描かれた堆積物の模様が自然のアートのように見えてきました。これは般若の顔に見えるなぁとか、こっちはハムスターや宇宙人にも見えるなぁと、何に見えるかを想像しているとけっこう飽きないものですね。ちなみに浴場の隣には大正時代に建築された洋館を改装した「震湯ギャラリー」というものがありました。地元の画家の絵なども飾られていて、温泉津の観光シンボルとなっているようでした。
掲載: 2006/10/21
Data
- 所在地:島根県大田市温泉津町温泉津
- 入浴 :2004年12月
- 泉質 :含石膏弱食塩泉
- 泉温 :源泉46.0度
- PH :6.0
- 蒸発残留物:6964.0mg/kg
- ラドン含有量:2.75マッヘ
- 形態 :公衆浴場 男女別
- 効能 :リウマチ性疾患、運動器障害、創傷、慢性湿疹および角化症など
- 露天風呂:なし
- 開放度:☆☆
- 清潔度:☆☆
- 気軽度:☆☆☆☆
- 地元度:☆☆☆☆
- 鄙び度:☆☆☆☆
- 素朴度:☆☆☆☆
- 異色度:☆☆☆
- 景色 :☆☆
- 総合評価:☆☆☆☆
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