温泉の学校
アイヌ語と地名

日本全国、読み仮名のよくわからないいわゆる難読地名がたくさんある。地名に由来することの多い温泉もまた同じで、有名温泉地でも例えば 鹿児島県の指宿温泉(いぶすきおんせん)や、鳥取県の三朝温泉(みささおんせん)、山梨県の石和温泉(いさわおんせん)、宮城県の秋保温泉(あきうおんせん) など、知っていれば読めるけど、知らないと間違って読んでしまいそうなものは多い。とりわけ北海道は変わった名前の温泉が多い。北海道はアイヌ語が元になっている温泉名(地名)が多いので変わった音の名前は多いけど、そこに強引に漢字を当てはめているので、読みにくいものはそんなに多くはないように思う。そこで今回は北海道の温泉名をいくつか紹介しながら、もともとの意味を辿ってみることにした。

1.稚内温泉(わっかないおんせん)

北海道の北端にある稚内市。あまり温泉のイメージはないかもしれないけど、海に浮かぶ利尻山を眺めながら優雅に温泉を楽しむことができる、近代的な日帰り温泉施設の「童夢」がある。

稚内をそのまま読むのも難しいけど、「稚」は訓読みの「わか・い」、「内」は音読みの「ナイ」で、「わっかない」。

江戸時代の地名「ヤム・ワッカ・ナイ」に由来し、アイヌ語で「冷たい・水・川」の意味があるのだそうな。温泉とは間逆だけど、かつてあった小川が飲料水として重宝されていたことだろうと推測できる。

2.登別温泉(のぼりべつおんせん)

北海道を代表する温泉地のひとつ。江戸時代から温泉地として知られ、明治には観光温泉地として開拓された歴史のある温泉。

ここも訓読みと音読みで「のぼり・ベツ」。やはり当て字で、ここのアイヌ語の地名は「ヌプル・ベツ」で、「色の濃い・川」という意味。先ほどの「ナイ」も川の意味だけど、こちらはもう少し大きい規模の川で、水かさが増すとすぐに氾濫してしまう危険な川を意味することもあるそう。色が濃いというのは、大湯沼から流れる川を見ればすぐにわかるけど、温泉の成分で川が白濁しているから。まさに温泉の川をほのめかす地名だ。

3.標茶温泉(しべちゃおんせん)

釧路の少し北にある素朴な町。すごく地味な印象のある場所だけど、ここに湧く温泉は個性的で熱烈なファンも多い。何と言っても「道東一の温泉」と自負する人も多く、隠れた名湯として人気が高い。

「標」は一般的には「しべ」とは読まないが、「しる・す」が訛ったものか。「しめ縄」を「標縄」と書くこともあるので、「しめ」が転じたのか。それに「茶」は音読みで「チャ」。アイヌ語だと「シ・ペッ・チャ」で、「大きな・川・ほとり」という意味だとか。「ペッ」は先ほどの「ベツ」と同じだけど、漢字の当て方が少し違う。ちなみにこの川は釧路川を指すようだ。

4.幌加温泉(ほろかおんせん)

北海道の中心近く、山の中にある静かな温泉。とても地味な場所にありながら、とても刺激的でワイルドな湯で、秘湯好きにはたまらないロケーションと湯である。かつては近くに国鉄士幌線があり「幌加駅」も存在したが、廃線に伴い廃駅となった。

「幌」は訓読みの「ほろ」、「加」は音読みの「カ」で、そのまま読める。元の地名は「ホロカ・ナイ」で、「後戻りする・川」の意味。「ナイ」は省略されてしまったようだ。川は近くの音更川のことだろうけど、逆流するわけでもないだろうから、蛇行して向きを変えていることを指していると思われる。

5.長沼温泉(ながぬまおんせん)

札幌の東にある長沼には、毎分1150リットルという豊富な湯量を誇る長沼温泉がある。のどかな平野部にある温泉で、広大な景色が印象的な温泉。

ここはそのまま日本語で「ながぬま」と読む。難読でもアイヌ語でもないようだけど、この地名はもともとアイヌ語で「タンネ・ト」と呼ばれていた。その意味は「細長い・沼」。開拓前にあった三日月湖の名前だそうな。ここは平野部なのでけっこう三日月湖が多い。その地名をそのまま日本語に訳した名前ということ。

まとめ:

 ここに挙げたのは極々一部だけど、河川に由来する名前を取り上げてみた。川に限らず、自然の地形や形状などを意味する言葉が多く地名に取り入れられているようだ。生活するうえでの先人の知恵が蓄えられているのだろう。アイヌ語はある程度法則性をつかむと、そこがどんな場所なのかよくわかって面白いと思う。是非、いろんな地名を読み解いて、旅を楽しく過ごしましょう。

参考資料:

稚内市「稚内市のご紹介」(http://www.city.wakkanai.hokkaido.jp/gaiyo/gaiyo.html)

登別市「市の概要」(http://www.city.noboribetsu.lg.jp/categories/bunya/city_shokai/gaiyo/)

標茶町「標茶町の概要」(https://town.shibecha.hokkaido.jp/gyousei/shibecha_gaiyou/index.html)

長沼町「町の紹介」(https://www.maoi-net.jp/maoi/donnamachi.htm)


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