温泉にはたくさんの種類がある。ツルツルとした滑らかな温泉、オレンジ色に濁った温泉、ピリピリと刺激のある温泉など、皆さんも好きな温泉があることでしょう。ところで温泉はいったいどれだけの種類があるのだろう? 浴場の脱衣場で見かける温泉分析表には何やら難しい言葉がいっぱい細かく書かれている。そこに書かれているのが「泉質」という温泉の種類。いったいどれだけの種類があるのか調べてみた。温泉は「温泉法」という法律で定義されているようなのでそこで調べてみると、第一章の第二条に
『この法律で「温泉」とは、地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、別表に掲げる温度又は物質を有するものをいう。』
と書かれている。この中で指している別表を見るとこんな感じだ。
1. 温度(温泉源から採取されるときの温度) 摂氏25度以上
2. 物質(以下に掲げるもののうち、いずれか一つ)
物質名 | 含有量(1kg中) |
---|---|
溶存物質(ガス性のものを除く。) | 総量1,000mg以上 |
遊離炭酸(CO2)(遊離二酸化炭素) | 250mg以上 |
リチウムイオン(Li+) | 1mg以上 |
ストロンチウムイオン(Sr2+) | 10mg以上 |
バリウムイオン(Ba2+) | 5mg以上 |
フェロ又はフェリイオン(Fe2+,Fe3+)(総鉄イオン) | 10mg以上 |
第一マンガンイオン(Mn2+)(マンガン(Ⅱ)イオン) | 10mg以上 |
水素イオン(H+) | 1mg以上 |
臭素イオン(Br-)(臭化物イオン) | 5mg以上 |
沃素イオン(I-)(ヨウ化物イオン) | 1mg以上 |
ふっ素イオン(F-)(フッ化物イオン) | 2mg以上 |
ヒドロひ酸イオン(HASO42-)(ヒ酸水素イオン) | 1.3mg以上 |
メタ亜ひ酸(HASO2) | 1mg以上 |
総硫黄(S) [HS-+S2O32-+H2Sに対応するもの] | 1mg以上 |
メタほう酸(HBO2) | 5mg以上 |
メタけい酸(H2SiO3) | 50mg以上 |
重炭酸そうだ(NaHCO3)(炭酸水素ナトリウム) | 340mg以上 |
ラドン(Rn) | 20(百億分の1キュリー単位)以上 |
ラジウム塩(Raとして) | 1億分の1mg以上 |
つまり「温泉」とは、地中からでてくる水や水蒸気で、温度が25度以上、または何らかの成分が規定以上入っていれば「温泉」ってことのようだ。
しかし、この温泉法にはその温泉の種類は何も書かれていないぞ。さらに調べていくとこれとは別に「鉱泉分析法指針」というのがあった。温泉法は温泉を定義する法律で、こちらは泉質を定義する行政指針とのこと。何度か改正がされているようで、泉質も「新泉質名」と「旧泉質名」と2つ名前がついていた。さらにけっこう細かく細分化されていて、その成分の内容によって難しくて長たらしい名前が沢山並んでいる。それこそ、「ナトリウム」や「カルシウム」「炭酸水素塩」「含硫黄・・・」など、その組み合わせで幾通りもあって、専門的すぎて何がなんだかよくわからない。でも、そこに「掲示用泉質名」というのがあった。わりとよく見かける馴染みのある名前だ。効能別に分類されているようだぞ。そんなわけで、その一覧を表にまとめてみたぞ。
泉質名 | 定義 | 効能 | コメント |
---|---|---|---|
単純温泉 | 源泉の温度が25度以上で、温泉水1キログラムのうち含有成分が1000mgに達しない成分の薄い温泉。水素イオン濃度(ペーハー)が8.5以上あればアルカリ性単純温泉と呼ばれる。特殊成分を含んでいる場合などは医学的にも高い効果が認められている。 | 神経痛、リウマチ、腰痛、疲労回復、関節痛、運動機能障害、皮膚病、外傷、やけど、高血圧症、脳卒中の回復期の保養、骨折などの後保養など。 | 無色透明で無味無臭の湯が多いが、成分が規定値に達していないというだけで黄色かったり硫黄臭がしたりするものもあります。比較的刺激が少ないものが多いので入浴しやすい、また石鹸がとく泡立つのも特徴です。単なる水でも温度が25度以上あれば温泉なんです。 |
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二酸化炭素泉 | 1リットル中1000mg以上の遊離炭酸を含有し、固形成分は1000mgに満たないものをいう。泉温が上がると炭酸が気化して遊離するため、冷鉱泉や低温泉に多い。ガスが泡立っていたり、入浴すると肌に気泡が付着したりする。 | 炭酸ガスが皮膚を刺激し吸収を高め、毛細血管を拡張させ、血圧降下に降下絶大。飲用:胃酸の分泌を促し、胃腸病、肝臓病、糖尿病、痛風に効果。 | ぬるい湯が特徴。飲む場合、炭酸ガスは空中に散じるので、湧出口から汲んですぐ飲用をする。時間が経つと効果が減少してしまう。炭酸ガスの効果で毛細血管を拡張させるので血液の循環を促して血圧を下げる効果がある。 |
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炭酸水素塩泉 | [重炭酸土類泉] 炭酸水素イオン、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンを主成分とし含有総成分は1リットル中1000mg以上。他の成分と混合している場合が多い。 |
皮膚病、じんましん、アレルギー体質、胃腸病など。飲用:胃腸病、胃酸過多、糖尿病、痛風など。利尿作用も高い。 | カルシウム・マグネシウムイオンは鎮静作用がある。石鹸はあまり泡立たないのが特徴。飲用すると利尿効果と尿酸の排出を促進させるので尿酸結石や膀胱炎にも効果がある。炭酸、食塩、芒硝などの成分が含まれていることが多い。 |
[重曹泉] 炭酸水素イオンとナトリウムイオンが主成分で含有総成分は1リットル中1000mg以上のもの。重炭酸とナトリウムを主成分とするアルカリ性泉。 |
美肌作用、皮膚病、外傷、火傷、神経痛、リウマチ、胃腸病、肝臓病、糖尿病、腎臓結石など。飲用:胃酸中和と炭酸ガスの作用で、胃腸病、便秘などに。 | 皮膚の表面を軟化させる作用や、皮膚の脂肪や分泌物を乳化して洗い流すので皮膚病などに効果がある。ツルツル、ヌルヌルした肌触りがあり一般的に「美人の湯」と呼ばれることが多い気持ちのいい湯。飲むと胃酸を中和して、炭酸ガスが胃の活動を促進させる効果もある。 | |
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塩化物泉(食塩泉) | 温泉水1キログラム中1000mg以上の含有成分があり塩素イオンとナトリウムイオンが主成分であるもの。泉水に含有する食塩の量により弱食塩泉(100〜500mg)と強食塩泉(1000mg以上)に分類される。 | 神経痛、皮膚病、打ち身、手足の冷えやしびれ、婦人病、切り傷、やけど、手術後の保養、病気の保養など。飲用:胃腸病、肝臓病、便秘など。 | 食塩を含む温泉なので舐めてみるとしょっぱいのが特徴。海に囲まれているだけあって日本で一番多い泉質なんです。皮膚に付着した塩分が汗の蒸発を防ぐために保温効果に優れている。石鹸が効きにくいのも特徴。ちなみに海の水でも地下から汲み上げれば法律上は温泉になるらしい。 |
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含よう素泉 | 温泉水1kg中によう化物イオンを10mg以上含む。平成26年(2014)に「鉱泉分析法指針」が改定されて加えられた新しい泉質。 | 浴用はなし。高コレステロール血症(飲用)。禁忌症は、「甲状腺機能亢進症」 | よう素というと思い浮かぶのはうがい薬。まさにその成分の入った温泉。濃い赤褐色が特徴的で、見た目にもうがい薬を彷彿させるものが多い。時間が経つと黄色くなるものもある。うがい薬に使われているように、とても強い殺菌効果が特徴。非火山性の温泉に多いが、日本はよう素の主要産出国で世界の3割ほどを産出。特に千葉県産が国内の80%を占めているのだとか。 |
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硫酸塩泉 | 温泉水1kg中に含まれる含有成分が1,000mg以上あり、そのうち陰イオンの主成分が硫酸イオンのもの。含有成分により、石膏泉、芒硝泉、正苦味泉に分かれる。 | きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症。飲用としては胆道系機能障害、高コレステロール血症、便秘 | 基本的に臭いはあまりない。渋みのあるものが多いが、微妙に甘く感じるものもある。全般的にあまり美味しくない。切り傷、やけどに効果的で俗に「傷の湯」と呼ばれる。また、動脈硬化症にも効果があり「脳卒中の湯」とも呼ばれることもある。 |
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含鉄泉(鉄泉、緑礬泉) | 1リットル中、鉄イオン20mg以上を含むもの。ヒドロ炭酸イオンと結合した炭酸鉄泉と、硫酸イオンと結合した緑礬泉に分けられる。湧出時には澄んでいるが、空気に触れると酸化して錆色(褐色の沈殿物を生ずる)の濁った湯になる。 | 貧血、更年期障害、子宮発育不全、湿疹、神経痛、リウマチ。 | 飲用の場合は、湧出口の新しい湯を飲む。緑茶を併用すると体内で酸化するので注意。タオルが赤く染まる温泉。保温効果が高く、造血作用を促すので貧血症に効果がある。 |
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硫黄泉(硫化水素泉) | 水素イオン、またはチオ硫酸イオンあるいは硫化水素に対応するイオン総量が2mg以上のものをいう。硫黄を2mg以上含んでいれば単純硫黄泉と呼び、遊離の硫化水素や炭酸ガスを含む総硫黄を2mg以上含むものを硫化水素泉と呼ぶ。 | 皮膚病、湿疹、吹き出物、美肌作用、神経痛、リウマチ、慢性の鼻喉炎、気管支カタル、水銀・鉛中毒など。飲泉をすすめるところもある。 | 日本ではわりと多い泉質で、卵が腐ったような独特の匂いがあります。この臭いがしないと温泉でないと思っている人もいるくらい温泉の代表的な泉質です。湧出時には透明で、すぐに黄白色の硫黄沈殿(湯の華)ができます。 |
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酸性泉(単純酸性泉) | 1リットル中水素イオンを1mg以上含有するもの。硫化水素、緑礬、明礬を含み、酸性緑礬泉、酸性明礬泉などと呼ばれる。ほとんどが無色か微黄褐色。 | 殺菌力がたいへん強いところから、皮膚病のうちでも特に水虫や湿疹などの細菌性の疾患に効果を上げる。 | 酸味がする。成分が濃いので皮膚がただれることが多く、昔から単純温泉や石膏泉などの湯を合わせて利用してきた。皮膚や粘膜を引き締める作用が強く、慢性の皮膚疾患など粘膜の炎症に利用されている。 |
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放射能泉(ラジウム温泉) | 1kg中にラドン100億分の20キュリー以上を含む。泉温が低い場合が多いので長時間入浴できる。ラドンによる疾患が発生する心配はない。 | 鎮静、循環器障害改善、血圧降下、更年期障害、不妊症、ノイローゼなど。 *吸入効果で気管支系に良い | 泉温が低い場合が多い。ラドンは湧出後、空中に拡散していくので、新鮮な湯でないと効き目がない。また浴室を狭くさせているなど工夫したところもよくある。目で見えるわけでないので、一見したところ単純温泉とよく勘違いする。ちなみに放射能だからといって被爆するわけではないので安心を。 |
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まとめ:
温泉は成分別に細かく分類がされているが、療養を目的とした効能別に区分され一般に利用されている。同じ「単純温泉」でも、実際の成分の濃度はそれぞれ違うので、その温泉毎に印象や効果に違いはあり、その個性が温泉めぐりの楽しみを一層深くしているのである。皆さんもたくさんの温泉地をまわって、自分に合った温泉を探しましょう。
参考資料:
環境省「温泉の保護と利用」 (http://www.env.go.jp/nature/onsen/index.html)
環境省「新旧温泉名対照表」
e-Govウェブサイト「温泉法」(http://www.e-gov.go.jp)